日本史(主に平安〜鎌倉初期)&源平史跡、伝承地巡りの記録。 あくまでも自分の為の記録で御座います。

かほりの源氏物語。
鬼頭天薫堂01

以前、御香について記した際に『鎌倉では、小町通りの“鬼頭天薫堂”さんがとっても御気に入り』と記しておりますが、こちらが その香司 鬼頭天薫堂さんで御座います〜。
“鬼頭天薫堂”と書いて、そのまま“きとうてんくんどう”さんと読みます。

最初は“義経”“静御前”“常磐御前”“弁慶”という“鎌倉お香物語”シリーズに惹かれて通い始めた御香屋さんで御座いましたが、こちらの御香の柔らかな香りは大変私好みで御座いまして…!
関東の御香屋さんの中では1番の御気に入りの御店で御座いますので、鎌倉へ行く度に足繁く通わせていただいております。

個人的な御勧めは、“かおり小町”という楠の御花の香袋。
普段から甘い御香は余り好んで使わない私ですが、この自然に薫る甘い香りは とても好きで、着物の収納に添えて使わせていただいております。
箪笥や衣装箱、文箱に入れられるような薄型になっているのが有難いです。

鬼頭天薫堂02

鬼頭天薫堂さんの2階では、時折 展示イベント等を行われていらっしゃいます。
これまでも幾度か拝見に上がらせていただいた事が御座いましたが、先日は なんと源氏物語千年紀イベントの企画展示が行われておりまして…!
御香と王朝文学である源氏物語は、切っても切り離せないもので御座います。
なんて素敵な空間なのかしら〜と浮かれながらも、楽しく勉強させていただきました。

   源氏物語千年紀

世界の文学史に輝く紫式部の書いた「源氏物語」は、シェークスピアの「ハムレット」より600年も前に書かれた類いまれな文学作品です。
全編、香りの文化に彩られたその物語は、王朝貴族たちの優雅艶麗な世界を彷彿とさせ、千年後の今日も数々の名訳によって読み継がれています。
貴族たちの必須教養として、衣や文、部屋にたきしめられた雅びな香り(練香)もまた、西洋の香りの文化、香水の先駆けとなったハンガリー水よりも、はるか昔の300年以上も前に生まれた日本固有の文化です。

紫式部が筆を執った源氏物語の原本は、はるか昔に行方知れずとなり、今日に伝わることはありませんでした。
幸運にもそれは、藤原定家の「青表紙」と呼ばれる筆写によってかろうじて残され、その傑出した文学作品を、改めて、世に広めたのは、香道の始祖とも呼ばれる東山時代の三條西実隆を中心とする文化人たちでした。
絢煽な貴族生活を描いた王朝文学は、姫君たちの必須の教養として、婚礼調度品の蒔絵箪笥には、「源氏物語」と「香道具」が必要不可欠でした。



鬼頭天薫堂03

“源氏物語”と“御香”といえば…“源氏香”で御座いますね〜。
香道は平安時代には無い文化で御座いますが、平安文化あってこその香文化発展で御座います。

源氏物語が好きな方には、源氏香の紋様好きが多いように思います。
源氏香は、組香…54帖それぞれに定められた形があるという事に(正確には2つ足りませんが)何といいますか、素敵な個性や魅力を感じるような気が致しまして……良いですね〜(笑)

   [源氏香]

平安の貴族社会に生まれた雅びな薫香(練香)の文化は、鎌倉時代の武家社会になると、奥ゆかしく幽玄な一木の香木を聞く新たな香りの文化が開花します。
その文化は、室町時代に「香道」として芸道の息に昇華し、香木の判定法(六国五味)や「組香」の創作が盛んになり、源氏物語の影響を受けて、江戸中期(享保年間)には組香の代名詞とも言われる「源氏香」が成立します。



   [秘伝の調合]

煉香の製法には、使用する香木・香料の種類や分量。
それらを粉にするための搗き方、ふるい方等々。
基本となる処方箋はありますが、公家たちの完成や知識によってそれぞれ独自の工夫が施され、調合法は門外不出の秘伝とされています。
今日、手がかりとされているものに、鳥羽院の蔵人であった藤原範兼が著した「薫集類抄」があります。
そこには、各家の秘伝の調合法が書かれています。



鬼頭天薫堂04

黒方、梅花、荷葉、菊花、侍従、落葉からなる六種の薫物も全種類並べられると壮観で御座います〜
源氏物語には六種の薫物の内、黒方、梅花、侍従、荷葉の御香が登場しております。

さらにいづれともなき中に、斎院の御黒方、さいへども、心にくくしづやかなる匂ひ、ことなり。
侍従は、大臣の御は、すぐれてなまめかしうなつかしき香なりと定めたまふ。
対の上の御は、三種ある中に、梅花、はなやかに今めかしう、すこしはやき心しつらひを添へて、めづらしき薫り加はれり。
「このころの風にたぐへむには、さらにこれにまさる匂ひあらじ」
とめでたまふ。
夏の御方には、人びとの、かう心々に挑みたまふなる中に、数々にも立ち出でずやと、煙をさへ思ひ消えたまへる御心にて、ただ荷葉を一種合はせたまへり。
さま変はりしめやかなる香して、あはれになつかし。
冬の御方にも、時々によれる匂ひの定まれるに消たれむもあいなしと思して、薫衣香の方のすぐれたるは、前の朱雀院のをうつさせたまひて、公忠朝臣の、ことに選び仕うまつれりし百歩の方など思ひ得て、世に似ずなまめかしさを取り集めたる、心おきてすぐれたりと、いづれをも無徳ならず定めたまふを、
「心ぎたなき判者なめり」
と聞こえたまふ。
 (源氏物語による)


源氏物語 第32帖“梅枝”では、明石様の姫君が春宮妃として入内するに際して源氏の君は姫君縁の方々に御香の調合を依頼されており、薫物合わせを行われております。
薫物合わせとは、調合された それぞれ練香の香りを競うもので御座いますね。

   [六種の薫物]

源氏物語に出て来る薫香には、「黒方」、「梅花」、「侍従」、「荷葉」といった薫物(煉香)が出て来ます。
それらに、「菊花」、「落葉」を加えて、「六種の薫物」と呼ばれ、季節によって使い分けられます。
源氏の君が製した「黒方」は、格調の高いフォーマルな香りを持ち、四季とともにあらたまった場所で用いられます。
「侍従」は、“秋風□颯として心にくい折によそへたるべし”といわれ、秋の香として用いられます。



源氏香柄をあしらった小物等も見る事が出来て楽しかったです。
昨日の記事に乗せた文香も飾られておりました〜。

   [デザイン]

源氏香の図は、香道の組香そのものとしてよりも、モダンで優雅なデザインとして一人歩きし、暮らしの中の様々な□□に使用されています。
例えば、着物や帯、風呂敷や手ぬぐい、干菓子や饅頭、化粧品のパッケージや老舗ののれんなどにも、この図を見かけます。
つまり、源氏香の図は、香道から独立して、暮らしの中のデザインとして定着しています。



鬼頭天薫堂05

壁には、室町時代の白描 源氏物語絵巻のパネルも展示されておりました。
↑右上の画像にいらっしゃるのは、紫の君と源氏の君で御座います。

群書類従の巻第359も御座いました〜!
御香に関する巻で御座いますね。

鬼頭天薫堂06

この日は、何と無く用事のついでに鎌倉へ立ち寄っていただけで御座いましたので、小町通り経由で鎌倉駅と鶴岡八幡宮を往復しただけだったので御座いますが、このような素敵な展示開催時に訪れる事が出来て本当に嬉しかったです。
珍しく休日で御座いましたので、小町通りも八幡宮も凄い人出では御座いましたが、ここでは落ち着いた時間を過ごす事が出来ました。

“源氏”縁の鎌倉で、関係は御座いませんけれど“源氏”の君の物語に肖った企画が行われているというのも、何だか不思議な縁で御座いますね。

   [貴族たちの嗜み]

人前には決して顔を見せない平安朝貴族の女性にも、男たちの求愛は、文に書かれた筆跡や和歌。それらをしたためた薄紙の質や色、たきしめられた香の香りから、人柄や教養、センスなどを品定めすることからはじまりました。
とくに希少で高価な香りは、申し分のない上流貴族の証として大切な嗜みでした。
展示の[伏籠]は、衣に香をたきしめる道具として必需品でした。



鬼頭天薫堂07

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鬼頭天薫堂08

ちなみに、その日の八幡宮…。
夕暮時でも、休日の鎌倉は とても賑わっておりました。
舞殿では神前結婚式も行われており、これだけの人々が居る中でも何処か幻想的な雰囲気を感じさせられるなと思いました。

鬼頭天薫堂09

↑神社入口の大鳥居の上には、1羽の鳥さんがいらっしゃいまして…。
信号待ちの人々が、
わぁ、あれ 鶴!??
流石は、鶴岡八幡宮!
と夢中で上を見上げて写真を撮っている姿が面白かったです。
……鶴さん では、無いと思いますけれど(笑)

Comment

 秘密にする

お久し振りです♪
文章を読んでいるだけで

よい香りが漂ってきそうな感覚になりました☆

焚きくらべや焚き合わせなどの後の香道に繋がる香りの文化=平安時代のイメージしかないです(笑)

ちょうど、伝来した文化を独自に生成、発展させていった頃ですよね♪

白檀や栴檀、沈香の香りが線香、香木、塗香形状問わず好きです。
水色桔梗 | URL | 2008/12/23/Tue 23:33[EDIT]
>水色桔梗さん
こんにちは、御久しぶりで御座います〜。
コメント嬉しいです♪
返信が遅くなってしまいまして、申し訳御座いませんでした…(><;

平安時代に発展した文化は、少しずつ変化していながらも現代まで受け継がれているものが多く御座いますね。
それ以前は、未だ伝来したものをそのまま取り入れている部分が多かった事もあって、ここから日本文化が華開いていった印象が御座います。

御香は、滅多に御風呂に入らない貴族には臭隠しの役割も大きかった事と思われますが、当時より伝えられる伝統的な御香の香りを聞くと、矢張り そればかりでは無いのだなぁという事が しみじみと噛み締められるようで…あぁ、御香って良いですよね〜(笑)
白檀や沈香系の香り、私も大好きで御座います♪
どうゝね | URL | 2008/12/28/Sun 06:41[EDIT]
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